秘密
◆不思議の国の住人もまた、過去にアリスとして連れてこられた存在である。
いつから始まったのか、繰り返しのコーカスレースのように延々の繰り返し。
不思議の国にて日がな一日を繰り返す度に記憶は薄れる。
そうして、本当の記憶が無くなり気づけば不思議の国に飲み込まれている。◆
◆各役職に携わる住人の前にも同役職の住人が幾人も存在し、
そうして不思議の国で亡くなっている。
記憶が作り替えられるように昨日までの役職が変わり、
新しいアリスが役職についていても誰もなんとも思わない。
当たり前のように受け入れられ、当たり前のように一日を繰り返す。
誰もが皆、静かに狂っている。
ただ一人、ユニコーンと呼ばれる存在を除いて。
ユニコーンだけは唯一無二であり、代替えが利かない。
そして、命が終わる事も無い。
繰り返しの毎日を、アリスが友人が、
赤の女王さえもが日々顔を変えていても彼だけはそのまま存在する。
アリスを選別し、アリスを誘導する、彼だけが国の全てを知り尽くしている。
記憶が塗り替えられることにより、
役職持ちの住人に至る頃には個人の名前は既に無かった物となる為
この国において名前とは無きに等しい。
誰もが役職で名乗り、アリスの名前を呼ぶことすら拒む者もいる。
名前とはそれ程までに蔑ろにされる物であり、
個々の区別に関してさしたる興味も持っていない。
住人が己の名前を知りたいと思う日が来たならば、
ユニコーンの元で教えられるが、
他の誰もが名前を大事な物として思っていないため
その行為が意味を持つかは別問題。◆
◆同名の物語、「不思議の国のアリス」と言う童話に関しては無知に等しい。
例外として、
知識を貪る芋虫だけがその存在を知っているが他の住人は知りもしない。◆
◆アリスに選ばれる人間に見つけられる共通点として、
幼少期の火災により家族を全て失っているという物が有る。
脳裏に刻まれるトラウマが、現実世界と不思議の国を曖昧にし
一瞬でも境界線が交わるならば、
その隙を突いてユニコーンが貴方を攫います。
アリスが身寄りのない生涯孤独だと言う事は、
どの住人も共通で知っています。
だからアリスを可愛がるのかもしれませんが
根にある自身のトラウマを無意識に宥める為なのかもしれません◆
◆現女王がアリス時代、迷い込んだ女王を拾ったのはライオン。
当時も今と同様に役職持ちだったのが
【 白兎/黒兎/芋虫/帽子屋/眠り鼠/ジャバウォック/グリフォン/ドードー/
フラミンゴ/羊/ライオン/ユニコーン/赤の騎士/ジョーカー/ムカデ 】
当時、アリスだったのが
【 三月兎/蜥蜴のビル/トゥイードルディー、ダム/
ハンプティ/チェシャ猫/人魚/悪魔 】
同期アリスでは有るが当時の交流は薄く覚えておらず、
組み替えられる記憶のせいで先代の上記役職持ちの事は頭から消えており、
当たり前のように上記面々が役職持ちだったと言う認識。
現女王がアリス時代に黒兎に焦がれ、
両思いになったが関係を捨てて女王になる道を選ぶ。
上記理由により黒兎はより一層と部屋に閉じ籠る様になるが、
日々その恋心も記憶から薄れている。
ジャバウォックは迷い込んだアリスと恋に落ちたが、
組み替えられる記憶に情緒不安定となり、
精神を病んだアリスが【涙の湖】に身投げをした。
以来、コーカスレースの様に終わり見えない繰り返しのこの国を、
強かに恨みこの国を乗っ取り理不尽な復讐をしようと企てている。◆
◆現女王に病が見つかった頃、
時期女王として相応しい人物が決まるまで女王が持つか不安だと理由を付け、
現女王のクローンを思案したのはジャバウォック。
当時より、現女王に対し心酔に近い崇拝しているチェシャ猫は異論も無く、
次ぐ女王が禄でもない人物になる位ならと力を貸した。
重ねて力を貸したのはそう言った類に長けている悪魔であり、
影にてこっそりと行われたクロン研究の元、
形を作れなかった失敗作を除き生まれたのは二体。
人間らしい形を保ち生まれる事の出来た二体に、
教育を施したのはチェシャ猫であり、
見た目のそっくり度と中身のそっくり度の勝る方を成功アリスと名づける。
見た目が少し逸れてしまい、中身もまた人間らしくない人形的の方は、
意図せずとも処分するつもりで失敗アリスと呼ばれていたが、
全ての研究を終えるより先に影で行っていたクローン研究が表沙汰となり、
生き物を作り出すと言う事が反した行為である、
と、言う事で中止を余儀なくされる。
その際に作られた二体は、現在遊園地にて他の住人により生かされているが、
作られた存在である事から何処まで持つのかと言うのは分かっていない。
当時、研究に没頭していたせいで正気を失っていたチェシャ猫は、
失敗アリスに対して人ならざる行為を働いたと言う自責の念にて、
現在も囚人服を脱ぐことが無い。
ジャバウォック、悪魔の二人に関しては反省する意味も分からない、
この国の為に行っていたと言う意思を現在に至るまで崩してはいない。
クローンの二体に関して、
認知はされているが正式な生き物じゃないと言う面で怪訝がる住人も多く、
暗黙の了解として遊園地のドールハウスに監禁状態である。◆